明礬温泉は別府の高台にあって立ち上る湯けむりと漂う硫黄臭気、周囲に広がる地獄風景と湯の花小屋、遠く見渡す別府の町と別府湾。
これでもかとばかりに温泉旅情を感じさせる地であります。
10年前の夏、私は一人この明礬の温泉に遊び、地蔵泉という共同湯に入りました。
夢のようなひと時でした。
その時のレポートに「次に来るときは鶴寿泉という共同湯にも浸かってみたい」と記した記憶があります。
あれから幾歳月、秋霜烈日、白髪三千丈
遥かなその思いが今このとき叶うのです。
鶴寿泉の湯は存外ライトでさっぱりとして、立ち上る湯の香は焦げたような上品な温泉臭。
湯は透明無色、熱めの45度の湯がとろとろと流され続けています。
開放的浴場の窓は開け放たれ、5月の薫風と明礬の湯の香が、一つの協奏曲のようです。
いいですねえ、ここは。
超俗の香りのする浴場には地元の青年が一人。
「人が生きとるね、人がここにおるんよね…♪」
青年はご機嫌で俗謡を口ずさんでいました。
母なる大地の贈りもの、温泉に浸かると、人はことほど左様に無防備かつ魂が解放せられるのかもしれません。
私の魂も明礬の空に昇華し、肉体は、鶴寿泉の湯に溶融。
全的に満足しきって弛緩しきって、その後、地獄蒸しプリンを食して旅を満喫。
さあ、次はどこに向かおうか…
見上げる青空に一点の曇りもなし。
我が心のごと