植木からほど近くに宮原温泉があります。
わたくしははじめ湯元館という郷愁あふれる旅館に訪問し入浴を所望したのですが、宿のお母さんは恐縮しきりの体で
「あいすみません、ここのところ家人の体調が優れず、宿もお風呂もやっていないのですよ」
と言われたのでした。
そういうことであれば是非もなし。
帰ろうとすると、
「あ、ちょっと待って下さいまし、せっかく来ていただいてのだし、せめてこれを持っていって下さい」
お母さんはミカンを3つ4つ5つ、これでもかと私に渡します。
「ああ、お母さん、こんなに喰えないよ、落っことしてしまいそうだ」
「それからね、これもあげます。ボールペン。せっかく来ていただいたんだから」
怒濤の饗応は女将の客人を断ることへの贖罪意識なのでしょうか、人の良さなのですね、きっと。
ここでお風呂には入れなかったけれど、素敵な思い出をもらった。