豆腐屋の四季という作品を読んだのはもう随分と昔になる。
血沸き肉踊るスペクタクルであった。
ここ霧島にも大スペクタクルな豆腐屋があるという。
写真で見るとその浴舎の枯れ具合と言ひ半円形したタイル浴槽の美しさと言い
これは是非行かねばなるまいと今回の旅ではひそかに決意していたのである。
しかし訪ねあてたこの日は土曜
平川豆腐の湯は朝ぶろを楽しむ人々で大賑わいであった。
いつものように浴客が老人や青壮年であれば何としても私にとっての一仕事たる
愛と苦悩の温泉撮影になんとか勤しむのであるがいかんせん
この日は休日とあって小さな子供を連れたお父さんが入浴せられていた。
カメラなぞ出すと下手をすると殴られる恐れがある。
瓜田に沓を入れず、李下に冠を正さず。
いや、それはそれで良いのだ
大慶ではないか
詩を紡ぐがごとき気持で開放する小さな公衆浴場
人々に一時の慰安と安らぎを供する公衆浴場にあって私の収集なぞどうでもいいことなのかもしれない。
ひとり納得して湯に遊びます。
豆腐屋の湯はそれは癖のない澄み切った湯です。
美しい半月型の浴場に滔々と流される湯
それだけでいいのです。
