静かな鴬宿温泉街にやってきました。
「ここではどこの温泉に入るんですか?」
「さあ…」
鴬宿温泉にやってきたものの入浴の当てがあるわけではありませんでした。
「そこの宿なんかいいんじゃないですか?草がれ感がいい」
「滅亡しているみたいですよ、ぺんぺん草が生えている」
「……」
そんな風にして思い出したのが共同浴場の存在です。
観光協会で料金を払えば外来のものも入浴ができます。
温泉は観光協会建物の裏手、町民憩の家という名称があるようで、集会所に浴場も併設されているといった塩梅のようです。
内部はいたって簡素シンプル。
正統派公衆浴場の造りで、4人も入ったら手狭な感じがします。
お湯は無色透明、清澄無比。
きりっとした熱めの湯が爽やかな東北の朝の空気にとても気持ちがいい。
管理人のお父さんは見慣れない私たちの訪問に興味津々です。
「どこから来たんだ?」
「静岡」、「金沢」、「琵琶湖」、「横浜」
「……? 仕事か」
「うん、温泉めぐりもしている」
「ほほう、それはいいですね」
私たちがお湯に浸かっているときも珍しそうに近寄ってきて盛んに話しかけます。
「熱くないか? ここで温度の調整もできるんよ」
「ああ、ありがとう」
「温泉だったら、ここから秋田の方に行くと有名なところがあるんだ、ここの湯は透明だけど、底のお湯は真っ白らしい」
「ほほう」
「鶴の湯とかいったかな、そこへも行くといい」
「ありがとう、おじさん」
良い管理人のお父さんだと思いました。
盛岡の奥座敷として有名な鴬宿温泉ですが、温泉街の寂寥感は、全国の温泉街にも共通する課題であり困難事象ではないかと推察されます。
でも、こういった狙ったところが微塵もない暖かいおもてなしのある鴬宿温泉を、好感し、かつ応援したいと思いました。