湯をい出て旅館前から山々を見上げました。
薄暮迫る茜色の空に山々のスカイラインが美しいです。
思わず一枚写真を撮ると、
「どうです、きれいでしょう」
宿の女将さんが誇らしげに話しかけてきました。
「うむ。綺麗な山だね。もう少ししたら雪が降るのだね」
「そうそう。寒いけれどとてもきれいだわ」
「あの山のくぼみのあたり、あれが狩勝峠だね、僕は今からあそこを越えるんだ…」
私の厳粛の言葉に女将は、
「お客さん、違う違う。あれは日勝峠。狩勝峠はもっとずっとあっち」
「はあ……」
ロマン溢れる旅人を演じたつもりがてんでダメでした。
やはり私の旅は、大汗かいて、右往左往して、いつも失敗ばかりで、まあそんなものなのです。
それでもこうしたひとときもまた何だか楽しくて、独りニヤリとして車に乗り込むのでした。
つづく